2022年8月22日月曜日

声をあげろ

 事始・別館18

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医療において,下位者が上位者へ「ものをいう」のは職業倫理でもある


 下位者から上位者への「異見」や「反対意見」はどんな社会でも難しい。上司にきちんと主張ができていれば、悲惨な結果がもっと違っただろうという例はいくつもある。

 そこで、方法がいろいろかんがえられてきた。もっとも知られているのが、航空などのCRMで教育される「アサーション」であることは前にかいた。航空などの場合、自分の命も危ないのに、「機長の怒り」のほうを優先したと思われることまであったという

 医療の場合も同じで「患者安全」でデッカーは以下のように主張のレベルを上げていくよう勧める(CRMとほぼ同じ)。

始めに:相手の注意を引く
懸念:心配の程度を明言する
問題:問題だと確信していることを明言
解決策の提案:解決策があるなら簡潔に提案。あなたが提案する相手は多分忙しい。「提案」は強く考えていることが伝わる。
同意:相手に敬意を持って返答を求める。「これでどうです か?」 「いけませんか?」

いわゆるSBARも似ているね

しかし、その全てが役に立たない場合もある。

まだまだ道はある、あきらめない。

1.     状況に適した 規則やガイドラインに訴えかける

2.     他のチームメンバーを味方につけるか打診する・・・

  さらに「手段」を考えている時間のない時にはどうするか?

   

 「声を上げろ」とデッカーはいう。

心理的安全、アサーションはもちろん必要だ。しかし、生死が危うい患者に代わって声を上げるのは医療者の職務倫理ではないのか!というのだ。

 「重要なことは、あなたがどう思われるかではない。(たとえ自分の将来に響くとしても)肝心なことは、生死が危うい患者への職務倫理である。

  その患者に代わってあなたが声を上げないなら、ほかに誰が上げられるだろう?言うべき時に声を上げなければ、あなたはそのことが職業経歴に及ぼす影響を背負っていくことになるだろう。それは昇進や卒業を逃したことほどには目立たないかもしれないが、あなたの今後の全職業人生にわたって恥という重荷になるだろう」

 

   「患者第一」「患者に寄り添う」「チーム医療」・・・病院も医療団体も「平時」はいろいろ言うが、いざその時はこれ(「声を上げる」)しかないのではないか、とデッカー教授は言っているように思う。

 (資格を持って仕事をしているんだ)「それくらいのリスクは背負えよ!」と。

 (この項 書きかけ)


2022年8月13日土曜日

本日のヒヤリハット(3) 「今、600錠在庫がないのですが・・・」「ぎゃー!!」

 10年くらい前の話 完全な電カルがまだ導入されていないときのできごと。

 ある、忙しい午前外来も終了まじか。

 患者さんの診察を終えた、内科医のAは処方箋を書き始めました。一日当たりの薬の量を書きこもうとしたその時、後ろから「××という薬、一回の使用量何ミリグラムでしたっけ?」と尋ねられ。「うん、600mgだよ」と答えました。

 そして処方箋に向き直ったAは薬の量の欄にそのまま「600」と書いてしまいました。この処方箋は看護師の眼と、医事課の眼を「無事」通り抜け、患者さんはそれをもって、処方薬局へ。

 しばらくして、診察を続けていたAに処方薬局から電話が入りました。       「診察中申し訳ありません。いま当薬局には、▽▽薬600錠在庫ないのですけど・・」「えーっ!」「ギャーッ!」

 薬局薬剤師の眼もパスしてしまったのです。

ミスに気付いたA医師は「危なかった」とほっとしつつ

「もしも仮に600錠在庫があったらどうなったのだろう?」「いくら何でも600錠は変だと思わないのだろうか?」「患者さんが600錠分のお金をもち合わせていなくて、先月よりも何倍も高い、と抗議されて気がつくのだろうか?」などと(自分のエラーは棚に上げ?)「チェックシステムの弱点について」考えるのでした。

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A医師の不注意だけが原因か?

このタイプのエラーは「乗っ取り型エラー」といわれもので、突発的なことに対応できない脳の認知機能の特徴によるそうだ。人間の脳は二つの事を同時にできない。できるのは、せいぜいガムを噛みながら慣れた仕事(スキルベースの仕事)をする程度、という。実際には、脳の中では二つの事を行ったり来たりしながら仕事をしている(これはパソコンも同じ。行ったり来たりを速くしているので「同時作業」をしているように見える)。

また、元の仕事に戻るほうが時間がかかる(トラブル)ようだ。

 この手のエラーは多数発生していると思われるが、ほとんどは事故に至っていない。それは、(自分も含めて)プロセスのどこかでエラーが発見され、指摘され、修正されているから(エラーマネジメント)なのである。

「ダブルチェックの形骸化」?

 当院でさえ毎日何百枚もの処方箋の発行がある。そのうちの多くは?前回と同様のものが担当医師の前(画面)に出てくる。それをクリックするのが仕事になっている。(事例の時期は「数」の記入はしていたのだろう)ほとんどの処方は前回同様なこともあり、ダブルチェックは形骸化されている。電カルでも内容的なことはチェックされない。「3錠(一日量)、2×(2回に分けて服用)」などと間違って入力すると、日本語とは思われない言葉?で拒否してくるくらいだ(よほどネット通販の画面のほうがわかりやすい)。頭は悪いし、不親切極まりない。きっと性格も悪いのだ。(D.ノーマン先生に言いつけたい)

 今回は違うが、場合によっては、人間によるダブルチェックの場合、エラーに気付いていてもとっさに指摘できない理由もある(遠慮、権威勾配、知識差・・・これは講座の「アサーション」「ダブルチェック」関連記事を参照してほしい)。

無菌の操縦席ルール

 また、特に「数の仕事をしているときに、別の(特に)数の事を話しかける」というのは(言葉は悪いが)そもそも仕事の妨害なのである。(講座・番外24「無菌の操縦席」「別館17 短期記憶と仕事の中断」を読んでほしい)

 「below ten」「無菌の操縦席」ルールでいかなければならない仕事だ。同じような設定は医療ではたくさんある。基本的には多忙だし、仕事が同時並行的に進められている(かつ、相互のタイミングなどの連携が必要だ)仕事がほとんどだからである。上記「番外24」で取り上げたが、点滴の調整をしているタイミングや、薬剤師が調剤している時間に話しかけたり、手術室の執刀医に電話を掛けたりすることがその悪例だ。

「ただ一つの原因を探し求める」ことでは組織の学習にならない

 事故原因を考えるとき、たったひとつの正解(誰が悪いも含め)を求めがちだ。事故の直近の小さなエラー一つに絞られたほうが「わかりやすく」「良い結論感」があるようだ。だが、結論が出なくとも、話が飛んでしまって、全く違った話になったとしても「事例を現場の言葉で話し合うこと」「ナラテイブに扱ってみること」がチームにとって最も効果的(学習的)ではないのか?

 現場の一スタッフでさえ「誰が悪いのか?」という発想になってはいないだろうか?

毎日のちいさな失敗からも大きな事故が起こりうることを想像できるような、そしてそのことを大げさでなく自然に日常の話題にできるようにしたいと思う。


(この項かきかけです)


2022年8月2日火曜日

(アルコール)プッシュとテイッシュじゃコロナをふきとれない(コロナ自宅療養日記 2022.7.ー)

ちょっと横道させてくささい。

 私 初老の医師兼管理人 コロナに感染してしまいました。  

    

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 勤務する病院の職員同士が結婚するという「慶事」が(2022年)6月と7月に続いた。およそ、3年ぶりだ。ところが、その2件目でパーテイの参加者に多数のコロナ感染が発生した。私も感染してしまって自宅療養(「放置?」)となった。

 私はワクチンはファイザーを2回接種。3回目は周囲の同僚に副作用報告が多いため延期していた。政府のコロナ対策はPCR測定の制限など、当初からの対策に不信感もあったが、近々、ノババックスを接種する予定だった。病院ではほとんどの職員が4回目の接種を行っていた。

2022.6. 病院職員同士の結婚式が3年ぶりに開催。 院長は「テストケースだな」。
     会場は横並びの長いテーブルで向かい合った間にずーっとアクリルボード。 
     その後職員のコロナ発生なし

2022.7. 同じく職員同士の結婚式。 規模も同様。
     会場は丸テーブル(6人づつ)両サイドに小さなアクリルボード、前方は空間。
     2・3次会あり(秘密だったようだ)。
     翌日から2・3次会参加者を中心に結局21人陽性が確認。
     
     私は翌日PCRとAG検査 陰性、
     しかし「暴露」から4日後,朝から「倦怠感・異常な眠気」あり、翌朝AG検査で 
               陽性となり療養生活に入る。
     
     保健所の「コロナウイルス感染症療養判定サイト」で「自宅療養10日間」とな
     った。登録で連絡がきた担当者に持病のことを聞いたが、判断できないようで 
     「とにかく登録サイト」の空欄に記入しておいてください、というだけ。私は呼
     吸器の病気の既往とがん治療の既往があるので実際に診察が必要なのかな?と思
     ったがそこはスルーされた。

     発症 1病日 36.5℃ 朝から倦怠感ひどい眠気
            咳、筋肉痛  PM 外来やってしまった

        2病日 36.8℃ 抗原検査 陽性 診断確定 下痢 倦怠感ひどい
            37.2℃(18:00) 右頭頂部表面?頭痛(ぴりっと)
 
        3病日 36.3℃ 咳と痰がひどい(副鼻腔炎が増悪している?)
                  頭痛 頭頂部表面の頭痛 おさえるとおさまる
            36.4℃ 頭痛にカロナール 300mg服用してみた 

        4病日 35.6℃ 咳・タンは少し軽くなったが多い(透明な粘っこい 
                  痰)
                  頭痛 薬を飲むほどではないが、時々「ピリッ」
                  「ヒリヒリ」こんな感覚は帯状疱疹(三叉神経)に  
                  なったとき以来
                   第3病日までは咳がひどく十分に眠れないこ
                  ともあってつらかったが食欲はあり、味覚も普通

第3病日に同居の息子(20代)が感染。激しい咽頭痛と高熱40℃。アセトアミノフェンでは全く効果なく、ロキソニン60mgで驚くほど簡単に解熱。NSAIDに関する当初の禁忌扱いは厚労省のサイトでも否定されていた。

第4病日、同居の息子また39℃。若くて反応がいいのも気の毒だ。この後、息子は「味覚が鈍くなった」と。カレーを食べて、「これ辛いんだろーね」と言い出たため亜鉛の服用(サプリ)と複合ビタミン(ありあわせ)と鼻洗浄(生食)をすすめた。 

エビデンスはないが2週間で改善した。



                       第5病日 36.6℃ 咳と痰が続く 鼻から出ているのか気管からのもの
            か?昨日からクラリスロマイシンを服用。頭痛はおさまってい
            る。

            youtubeで後遺症を見ている内科医の解説を聞く。審議会の何と
            か教授たちよりも、患者さんをみているだけに、出来ることで
            きないことを明瞭に語る。後遺症の予防に有効なものに、「鼻
            うがい」というのがあるらしい。1回/日でも有効というので試し
            てみよう。鼻炎もあるし。味覚や血栓ばかりでない。

             この先生なら頼りになりそうだな、と思ったら、毎日朝の3時
            くらいまでネットで相談受け付けているらしい(もちろん日中も
            予約でいっぱい)。「20分くらい診察して、カゼと同じ扱いな 
            ので売り上げ700-800円というところです」と。でも、厚労
            省のひどかった「後遺症対策ガイドライン」がやっと改定され
            た、ので進歩はしている、という。(見たけど?)
                        
        第6病日 36.4℃ SPO2 97%(保健所のもので)
           咳は少なくなったが粘っこいのが喉の奥にたまるので、喀出するの 
           に疲れる。当初は筋肉痛がひどかった。ぜんそく患者さんのひどい 
           咳で肋骨にヒビ、というのを聞いたことがある。まさにそれ。
            保健所から状態調査の電話あり、元気な様なので、以後、変わっ
           たことがあったら「自宅療養チームにじぶんで連絡ほしい」と。

            食欲は動かない割にある。太りそうで今日は昼は抜いた。
            鼻腔洗浄は昨夕から実施してみているが、痛くはないが写真の様
            にはいかない。でも、すればすっきりする。

           息子は 昨日夜からは高熱がなくなり、自分でランチをつくってた 
           べている。(家内は今日も抗原陰性。不死身だ)
         第7,8病日 熱36.4℃くらい。咳と痰はあるが、喀出に苦労する
           わけではない。「ガボッ」と出ることもあり驚くが。
         
権威者・有識者にされてしまった人たち

 ★テレビはもともと見ないが、暇なのでyoutubeのニュース系, コロナ系?をみている。
 政府の有識者会議に出ている大先生たちは「研究もしていないし、臨床もみていない」と馬鹿にされているように あいまいな「現状」(人数)のみをモゾモゾとはなすだけ。朝のNHKラジオに毎週出る「委員」も何か月も同じことをいっている。「感染対策を徹底して、行動」だって。2年間同じことをいっている。

 おまけにトップの「尾身クロン」さんが、もうお手上げ、と言い出した。「(あとは?)自己責任」というような言い方だ。
 毎日TVに出て有識者の先生たち、「上がってますね」「下がってますね」じゃ、東京都の緑のオバサンとかわらない。「空気感染」という言葉を2年以上もタブーのようにしていた人たちが、横滑りして日本版CDCとかいってもおんなじだ。
 
 最初から間違っていたのだ。間違ったことを修正できないのは科学者でない。まるで原発の保安院(事故時のトップは経済学部出身。当時の菅首相が怒ったのは当然だ)をおもわせる。あの時は東大原子力の先生たちも「科学者としての矜持」がないことを証明した。誤りを直せない国なんだ。「間違ってました」とも言えない国。間違いと分かっていても突き進む危ない国。

 ただ現場で実際に患者さんを診ている若い医師たちの発言は共感を覚えることが多い。重症化した患者さんの入院をみている医師たちの話も聞きたいと思う。

 というわけでこの項のタイトルは「手洗いとマスク(飛沫)、スプレー」だけを強調し、PCR検査を世界で下から2番目に制限し、(実は安価で優秀な国産)検査機器のビジネスチャンスをつぶし、「空気感染」の現実を隠していた?某国の衛生行政に対する「応援歌」です。

コスメテックコンプライアンス

 クラスター発生源となった7月の結婚披露宴会場の感染対策も入口に電動のアルコールスプレーと各席に「素敵な」ウエットテイッシュがついていただけ。それでも6月の会場は換気扇のようなものが天井にたくさんあったが、7月の会場は天井がすこし高いというだけだった。

「経済」をうごかすために、感染対策(経路)をあいまいにしていたため、どこに行っても電動のアルコールスプレーと濡れテイッシュ、と顔カメラ(体温測定)ばかりが普及(この業界はうるおった)。肝心の換気は目立たない(かつコストがかかる)こともあって理解・普及していない。「1時間〇回の換気」って「窓を開ける」こととは意味が違うはずなんだけど。

        第9病日 36.6℃、SPO2 97% まあ調子よい、咳と痰はあり
        第10日病日 解放 後遺症は今のところなし。ただ、動かないので足 
        腰が弱っている。

        解放されてから5日目にたまたた病院の職員検診がありついでに「抗体 
        価」を測定。3900AU/mlだった。ワクチン2回接種後試しにはかったとき 
        は20台だった。さすが本物のウイルスだと思った(mRNAとは違う。苦
        笑)

院内の感染は、しばらくポツポツと続いた(他疾患での入院者も)ので、入院を一部制限。一か月後8月下旬には収束した。