2015年12月14日月曜日

事始・別館 10 fly by mouth 口で飛ぶ

「口で飛ぶ」fly by mouth
~さまざまなコミュニケーション法~



しばらく前の「講座」で、現場でのコミュニケーション技法として、軍や航空から取り入れられた①SBARや②「無菌の操縦席ルール」を紹介したことがあります。中でも、航空界は、事故例の検討を「しゃぶりつくすようにやっている」(ある元機長)ので、「規則とすること」以外にも、事故の70%と言われる人間の要因を減らすために、さまざまな工夫をしています。私たちと共通することもあるし、なじまないこともあります。
そんな工夫をもう一つ紹介します。それは「口で飛ぶ」(fly by mouthというコミュニケーション技法(工夫)です。
(以下 概要を引用 太字意外は筆者の思いつき)


チーム環境で仕事をしている時は、自分の意思をはっきり声に出す習慣をつけている方がいい

 このことを航空界では“透明”なコミュニケーション(transparent communication)あるいは「口で飛ぶ」というそうです。そして、これは医療でも通じるのではないか?と思われます。

なぜ自分の意思を声に出した方が良いのか、ということには「4つの理由」があるようです。
1)(患者に対して):意識のある患者はこれから何をされるか、ということを前もって知りたい。

その方が安心?自分のためにも協力的になり、気持ちの準備をしてくれる。いきなり「ブチッ」とやられるよりもよほどよいでしょう。また「昨日、お話したようにね・・・」と言ってはじめるとより協力的になるでしょう。

2)(チーム環境の場合、チームに向けて):自分の意図を明らかにすることで、いつ、誰が、何をしようとしているのか、という状況把握を向上〈共有〉できる。

例えば手術場や集中治療室では、メンバーの各々が声をだし仕事をしていると、そのことで、お互いの状況・仕事の進捗などを知ることが出来ます。何かおこった時だけでなく、業務そのもののコ―デイネーション・微調整が可能になる。「おっ、○○があれをやっているなら、こちらも少しペースを速めようか」とか、うまくいかないときの準備は大丈夫か?と眼で○○が用意してあるか、などひそかに確認したり、考えたり・・・・でも、ここで大声を出したりするとかえってあせらせることになるね。ははは。
例:(OPCABで血行動態が不安定。手術操作を休んでも回復まで時間がかかっている・・・・)
(麻酔医)「血行動態の維持が難しいですねー」
(執刀医)「そうですね。じゃあオンポンプ(人工心肺を装着する)に変えますか?」「ポンプ用意して!」
この会話で、助手だけでなく、看護師、技師もバタバタと「ポンプ体制」になるかも。

逆も同じ(手術操作が終わって)
(技師)「じゃあ、ウィニング(すこしづつ人工心肺の補助を減らしていく)開始していきまーす」
(技師)「なんともないですか?(心臓が)張ってきませんか?いま、◎リットル(補助の流量)でーす」
 この会話で、執刀医は心臓の負荷を監視し、麻酔医は呼吸の補助を再開し、強心薬や血管拡張剤を調節していくし、外回りの看護師は輸血(類)の準備(加温など)を確かめる・・・と言う具合です。
(技師)「じゃあポンプ止めまーす。いいですか?」
(執刀医)「止めてください」
(技師)「はい、ストップしました」
で、このステップ修了。

3)他のメンバーが間違いに気づいて、未然に防ぐ機会になる

例: (ICUの中で)
(看護師A)「○○さんに、□□のために、 ▼を◎mg静注しまーす」
(看護師B)「えッ、何だって?もう一度言って!」「それ○□さんじゃないの?」
(看護師A)「だって、ここに書いてある・・・あっ!用紙がちがってた!」

4)熟練者である場合、「自動操縦」(考えなくとも、手が動いている状況。いわゆるスキルベース)で仕事をしていることがほとんどだ。しかし、その意図を声に出すことを習慣づけると、エラーを起こす行動を実際に行ってしまう前に、自ら気づく最期の機会が得られることになる:「一人指差呼称」も同じ効果⇒芳賀繁先生などが書かれたものを読んでください。


結局、ブツブツ独り言、のような感じなのですが、そのことで「一人指差呼称」的効果の他に、周囲とのゆるやかな「情報・状況認識の共有」や「(ゆるやかな)ダブルチェックの要請」「業務のコーデイネーション」が得られ、一連の行動を通じてリーダーシップを確立していることにもなるようです。

しかし、①SBAR②無菌の操縦席ルールや、この「fly by mouth」もあくまでも“スキル”の一つです。業務上のコミュニケーションの目的を“(チーム全体が)状況に関する効果的で、共通の理解に達すること”と、しっかり理解すること、そのためにどんな態度・振る舞いをすべきか、をいつも考えることが必要です。もちろんひとつの正解があるものではないのですが・・・。

最近、NTS(ノンテクニカルスキル)とか言って業務上の知識(テクニカルスキル)と別に教えると何かが出来る技術であるかのような傾向があるのですが、あくまでも業務上の知識の実践に伴って機能するもの、ということを忘れてはいけません。

Fly by mouthをみんなが大きな声ですると、騒がしい病院になるし、ブツブツやるのではあまり効果がないし(「独語」?)・・・・・

繰り返すことになりますが、チーム作業の場合に「状況」(現在している仕事や見通し)についての共通した認識をもてるようにいつも意識して行動する習慣をつける必要があるということです。それが安全に、効率よく、そして気持ちよく、仕事を終えるやり方だと思います(そして、その後、うまい酒を・・・ははは)。

l  “口で飛ぶ“については(故)内田モトキさんの航空推理小説のなかで易しく説明されていたのですが作品名を忘れました。どなたかご存知ないですか?

●(2023.1.追加です)元日本航空キャプテンの小林宏之さんによると、ダブルチェックの徹底なのだそうです。一人が口に出して、それをもう一人が確認する。それは「互いを信頼しなさい、でも互いに確認しなさい」ということだそうです。(医療VS他業種 安全文化10番勝負 丸善出版)そういえば「PILOT MONITORING」という言葉もあったな。


2015年8月23日日曜日

本日のヒヤリハット 「挿管ができない!」 (2題) 

 気管内挿管というのは、たいていは何気なく,していることなのですが、一旦、トラぶってしまったとき、人がいないときなどは「緊急事態」になってしまいます。

 最近当院で経験したトラブル2件です。

 (1)原則にもどって危機脱出

その麻酔科医は挿管は上手な方でした。

いつも、誰かが困っていると、「こうやってすると易しいよ・・・」などと教えていました。

その日は、ちょっと違いました。

予定手術時間は短く、次の手術(自分が担当)も控えていました。簡単なはずでした。

覚醒を早くしようと思い、麻酔の導入は深めにしましたが筋弛緩剤は使用しませんでした。若い時に先輩から、拮抗薬の副作用を聞いたことがとても強く印象に残っていたので、短い手術時間が予想される場合は筋弛緩をしないことがしばしばありました。


ところが気管内に管を入れようとした時に、ちょっと唇を傷つけ出血させてしまいました。おまけに喉頭展開が不良のため、epiglottis の陰に盲目的に管を入れようとしました(一回目の失敗)。もう一度今度はスタイレットを使用して入れようとしましたが,食道に挿入(二回目の失敗)。三回目はビデオ喉頭鏡を使用しましたが、今度は画面が、口腔内の血や唾液のため曇ってしまい、オリエンテーションがつきません(3回目の失敗)。


 3回目と4回目の間に、バッグを押しながら思い浮かんだのは「just a routine operation」のビデオでした。「やれやれ、人生3回目の、挿管困難⇒緊急気管切開か?」とも考えました。同僚を呼ぼうとも考えたのですが、2人の同僚麻酔科医はそれぞれの手術で手が空いていないはずでした。


 トラぶったときに、「近代的武器」をやたらと使用して、次の判断を遅らせることは、より状況を悪くすることを先輩に教えられたことがありました。また、上記のビデオも見たことがありました。

「シンプルに考え」「出来るだけ原則に従い」「必要なことだけをする」と考えただけで気持ちも落ち着きました。

幸い、ここまではマスクでの換気(酸素化)は十分でした(SPO2 100%)。バッグもそれほど重いとも感じられませんでした。「出来るだけ早く終わる」という目標は中止し、普通に筋弛緩をきかせ、口腔内をサクションで清浄化しました。そして、頭部の位置を確認し、普通の喉頭鏡をかけたところ、案外簡単に声帯(気管口)が確認できました。4回目は簡単でした(そもそも、「見た目」は挿管困難ではありませんでした




(2)緊急再挿管で新型?喉頭鏡を使用

患者さんは心臓外科術後3日目の80歳代のおじいさん。下顎が小さく、挿管困難を予測して、手術の時には麻酔科医は最初からビデオ喉頭鏡を使用していました。術後も人工呼吸は予定通り離脱していたのですが、3日目になってから、呼吸が悪くなり、緊急に再挿管が必要となりました。


居合わせた心臓外科医(担当医)が、再挿管を普通の喉頭鏡を使用して行おうとしましたが、声帯を確認できません。何度か試みましたが全て不成功。呼吸を補助するアンブ―バッグを押しながら「○○先生(麻酔科)いるかなー?」とナースに呼び出しを頼みました。が、土曜日の朝なので、連絡はついたのですが「今から出勤するところ」ということでした。



「○○医師が来るまで手でバッグ押して待っていてもいいけど・・・」と担当医は思いましたが、集中治療室にある「○○医師の挿管困難セット(笑)」にも簡易型?ビデオ喉頭鏡がある、と気が付きました。担当医は「ホンモノ」のビデオ喉頭鏡(2種類ある)は苦手でした。使用したことはありましたが、殆ど失敗。ところが「簡易型」は従来のものと扱いがほぼ同じで、ブレードの先端につけられたプリズムを利用した画像をレンズで拡大して「覗く」、というものでした。これでやってみよう。


いざ、使用してみると案外簡単に声帯を確認でき、再挿管は無事完了。



この2例、同じ挿管困難例ですが、一つ間違えればjust a routine operationのような結果になっていたかもしれません。


少し違ったのは
1)時間帯(日勤帯):医師ばかりでなく、コメデイカルの「手」も利用可能と発生場所(モニターされている手術室と集中治療室)
2)case 1では目標を「迅速な覚醒」から「遅くとも安全な呼吸管理」に変更したこと。
 しかし、他の手段 (ラリンゲアルマスクや「覚醒」など)を考慮していないことはちょっと問題?
3)case 2では、同じことを繰り返すのではなく、柔軟に手段を変えていること
4)2例(医師2人)とも、外科的気管切開(最近では経皮的気管切開)の知識と経験が十分あったこと。いざとなれば出来る、と言う気持ちの余裕があるので、他の手段を考えることもできました。

5)DAMなどという概念がまだないころに、私も緊急気管切開に出くわした経験が2回だけあります。薬物(風邪薬)による急性の喉頭浮腫で、口腔の粘膜全体が腫れあがり、麻酔科医達もすぐにあきらめました。私は自信があったのでなんとかしたい、と言いましたが、先輩の外科医(救急部)は、「ダメ」と一言、さっさと気管切開を決断して、ただちに実行しました。患者さんは数日後切開口を閉じて退院しました。

 現在は、いろいろな手段(器具)があり、アルゴリズムなどもありますが、かえって判断する時間をとり、危険にさらしている可能性がないかと心配です。

アルゴリズムも良いのですが、状況認識とかリーダーシップ、優先順位など、ビデオ(下記参照)のパイロットがいうヒューマンファクターズから考え・実行することも有用と思います。

(追記)緊急の気管内挿管が素早く安全に行われるか否かは、何より患者の状態(呼吸だけか?それ以外も問題があるか?)と何処で起こったか、とそこに協力可能なメンバーがいるかどうか?によります。

 経皮切開セット使用のトラブル例(認知の固着?)などは別稿



【参考】

挿管困難のアルゴリズム

「just a routine operation 」:
just a routine operation 大阪大学病院中央クオリテイマネージメント部大阪大学病院の医療安全のサイトにある動画。妻が麻酔導入時の気道トラブルで低酸素血症になり死亡。路線パイロットである夫は、医療の安全のためにヒューマンファクターの導入を訴える。

新たな疫病「医療過誤(朝日新聞社2007)

少し前の本(いろいろな医療事故を小説風?に述べで解説したもの)ですが、この中に気管内挿管時の判断で患者さんが低酸素脳症になった例があります。これは、病棟で発生した呼吸困難にたいして、慣れないスタッフのいる病室で挿管をするか、ICUにまで運んで慣れたスタッフのもとでするか?という判断を迫られたケースです。結局ICUに運ぶまでに時間がかかり、呼吸停止、蘇生後脳症となったもの。医師は旨く行かなかったことを後悔しますが、2年後訴えられます。著者も私も、どこというミスとかいうより、その時の判断を「後知恵」で「病室でさっさとやれば」といっても、と思うのです。その時の状況で判断した「ICUへの搬送」は「ただしい」のです。







2015年7月4日土曜日

本日のヒヤリハット 「またやっちゃった」 でも、アサーションに助けられ

まあ、簡単な手術の、「簡単な」麻酔。小一時間予定。
患者さんは小さいおばあちゃんだ。


気管内挿管下での静脈麻酔。筋弛緩剤は使用していない。
安定して経過。手術は半分以上進んでいた。ここまではいつもと同じ、順調だ。

ところが、酸素飽和度と心拍を示す音のトーンが変わった。
それまで、100%を示していた酸素飽和度が99⇒93⇒91・・・・・70と見る間に下がっていったのだ。

「あれーっ?」と思いながら、さすがにマニュアル換気に切り替えたが、手の感覚は少し「固い」のでバッグを握る手に力が入る。横の呼気炭酸ガスモニターを見た。異常はないようだ。波形もいいし・・・。が、とりあえず酸素は100%にした。
ところが、マニュアル換気に切り替えたあとから、急に血圧も下がりだした・・・・・70mmHg。「エーッ!?」

一見ボーッとしながら?内心あわてる麻酔医。
そんなことは関係なく手術を続ける外科医。

「何だ、何だ?」という麻酔医に
「先生!呼吸音を聞きますか」と男性看護師
「うーん、そうだな。じゃあ、聞いてみて」と麻酔医

「左の呼吸音が小さいみたいです」(別の看護師)
「えッ 気胸?あっ!いや、挿管チューブが深いかも。22cmだけど20まで抜いてみよう」
チューブに巻きつけられた絆創膏を緩め、チューブを浅くしたところ、少しづつ酸素飽和度が上がってきた。81⇒ 86⇒ 92⇒ 99%・・・ 同期音のトーンも元の高音に戻った。
皆、胸をなでおろした。

「ああ またやっちゃった」
入れ歯をはずしたばあちゃんだった」


・・・・・・・・・・・・・

タイミング良く、アサーテイブな提案をした看護師

気管内挿管が深めだった、ということに加えて、頭部が動いた(未確認)ことで・・・起きたことを、時系列で記述すると

気管チューブが右側に深く入ってしまった
 ⇒片肺⇒低酸素(警報)
(麻酔医は低酸素警報が鳴ったので、反射的に、手押しの換気を強めた)⇒胸腔内圧上昇⇒静脈環流低下+右心負荷⇒低血圧ショック

でも、このエピソードを紹介したのは「またやっちゃった」というヒヤリハットが目的ではありません。この時の看護師のアサーテイブな発言が有効に機能したことで、問題を早期に解決できたと思うからです

「先生、○○したら」「○○は?」と言う問題解決型提案を次々に発して、ともすれば皆が沈黙したり、フリーズてしまう時間をのりこえたと思うのです。
看護師は多くの場合、警報や危険なことに気がついたような場合、そのことは報告しますが、「治療や処置に立ち入った」ような発言・提案はしない傾向にあります。

とくに「呼吸音を聞いてみますか(みましょう)」という提案は、ともすれば表示されているデータ(モニターの数字や波形)だけで判断しようとする傾向になっていることを反省させるものでした。原則にもどって、簡単に原因がつかめたのです。また、麻酔医は過去の経験を、この一言で思い出しました(リマインダー効果?)。(*注1)

「レントゲンを撮って・・・」などといっていたら間に合わなかった可能性もあるのです。

僕自身の経験としては、本当に緊張性気胸だったことがあります。心臓手術の麻酔導入直後で、レントゲンで確認する間もなくトロッカーチューブを挿入しました。そのまま、手術は実施・無事終了しました。原因は前日のCV、TDカテーテルの挿入によると思われました(挿入後のレントゲン写真では問題なかった例です)。

「呼吸管理をしている時の急なショックの原因は 1)気胸・・・・を疑え」という卒業後すぐ救命センターで働いていた時の「先輩の教え」を思い知らされた例でした。今回は、直接動脈圧モニターをしていなかったことも、すぐに原因がわからなかった要因でしょう。

本館の番外22も御覧ください。殆ど同じ失敗でした。

SPO2のトレンドは後日掲載予定


注1.この看護師は特に「片肺」とか「緊張性気胸」とかを意識していたわけではないようです。ただ、原則に戻ってチェックを進めることを考えたということでした。

注2. アサーションを「健全な自己主張」として(私からいうと)「メンタル」に扱っていることが多いのですが、こういうさりげない「仕事上の会話」が私たちが目標としているアサーションなのです。”good job”だったと思います。手術が終わった時に「君のおかげだ。助かった」と麻酔医が小さな声で感謝を表していました。この積み重ねが良い(強い)チームを作るのです。



2015年1月10日土曜日

事始・別館 9-4 達成された安全は人の眼をひかない(4)"マニュアルをこえる”ということ


*このレポートは、私の担当する院内のIG部会の定例会議で業務上の話の終了後、毎回行われているメンバーの「もちまわりワンテーマ」として話されたものです。

 当事者から直接お聞きしたこと(や資料)、あるいはその関係者(同僚)からお聞きしたことのほかに、芳賀先生、小松原先生の講演録からまとめたものです。リンクは今回2015.1.つけましたが、会議時点ではありませんでした。



2012.2.9.IG部会
よい例にはきっと理由があるはずだ?!
この一年、大事故のときにみられた組織と個人のありよう
(マル)の組織

  「(津波から機体を避難させるために離陸したが、津波で基地を失い、指揮系統を失い)孤立した海保ヘリ」の行動:無線がつながらずに本部と連絡がとれない。しかし、不時着した自衛隊基地で本部の指示を待たずに、自衛隊や消防ヘリと救助活動に暗くなるまで携わった。マニュアルは本部から第一線までの指揮系統が生きていることを前提にしていた。高度をかなり上げると通信はところどころ可能となったが、低空では繋がらなかった。隊長は「組織のそもそもの意味を考えると迷いはなかった」(あとで怒られたが「処分は保留」)その他の海保の活動はこちらです。
  JR東と各臨海鉄道線は運転中の27列車が緊急避難の対象となった。各地の運転指令の指示(無線)で列車を止め、避難を訓練どおりおこなった(地震津波は「想定内」だった)。が、一部の列車には無線が悪く指令が届かなかった。現場では「規定」に反して「決められた避難場所」に移動せず高台で停止した列車では地元乗客の意見を受け入れ全員車内に残った。低地で停車した列車は全員そろって高台や避難場所に逃げた。駅もろとも5本の列車が津波に流されたが人的被害ゼロ。(JR東テクニカルレビュー45JR東労組の記録
  本部の指示がないのにありったけのペットボトルを避難所に配って回ったコンビニエンスストアの行動活動のまとめを公開している)
  帰宅難民にビルを開放したり、スープをふるまったレストラン。ロビーを開放し毛布を貸し出した超一流ホテル。
  デイズニーランドの入場者7万人、うち帰宅不能の2万人への対応。5万人まで想定していたマニュアルとキャストの機転(販売している菓子を配ること、配布の順番は決めてあった。しかし、それ以上のことができた。ダンボール、ぬいぐるみ・・)
  指定された避難場所に一旦にげたものの、そこは危険と判断、さらに高台に移動して助かった中学校の判断

  JR貨物:被災地の近くで地震のため停止してしまったコンテナ列車。大半が首都圏むけ北海道の食糧を積載していた。荷主の同意を得て食料品などをそのまま被災地・避難所にJR東社員のボランテイアや災害派遣部隊の協力で運び出した(東北本線の全線再開は40日後だった)。またJR貨物はグループの協力を得て、日本海まわりで燃料の緊急輸送経路(根岸ー新潟ー青森ー盛岡)を開いたり、民営化以後、急カーブと傾斜で貨物車通行の実績のない磐越西線(新潟ー郡山)も南東北への燃料輸送経路として開発した(普段燃料輸送に使用していない各線区の重量計算など大変な作業なはず。JR東が2日で計算し、貨物は適合する機関車・タンク車を全国から集めた)。http://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/td/pdf/2_9.pdf



*もっともっと報道されない素晴らしい対応があったと思われる。 

(マル)でなかった組織

  薬事法を理由に、震災時に病院間での薬の融通を拒否した病院
  被災自治体の要請がない(「要請すらできない状況」と想像できない)からと、支援物資を送らず、ためこむ役所(県や少し後方の市)。その結果、支援物資の受け付けを中断する自治体(送る側)が続出。
  生徒をマニュアル通りに校庭に並ばせ「待機」させ(逃げ場所を沢山確認し)避難場所に向かううちに津波に襲われた学校(調査中)
  「(煙にむせても)火を確認しなければ火事と認識しない」「運転指令の指示がなければ乗客を避難させられない(動けない)」JR北海道(国土交通省はマニュアルの改訂を指示した、が・・マニュアルが問題?)
  「公平」にこだわり、夏が過ぎても配られない募金。募金・義援金の配布能力がないことが判明。また(配布に)「口を出したがる」役人(交付金のつもり?)(寄付した側は白けてしまう。もう二度と日赤に寄付なんてしない実際に働いているNPOにカンパしたほうが良い。その後、私もカンパ先を友人の属しているNPOに換えた
  (ヘリから)ものをなげおろしてはいけない規則。着陸できない場所で食料を孤立した被災者に配らないヘリ(米軍は「バカか?」と見ていた)。ただ、組織によっては違った。石巻市立病院には食料がテラスに投げ込まれた。おかげで、3日目に職員は食料にありついた。
  災害マニュアルに従い、病院を目指した管理職職員、津波で親子とも流された
  「前例がない」(前例などあるわけがない!)と避難的集団転院を一旦承諾しながら、許可しない(できない)県役人(転院が遅れて危機的になったので県を通すことなく現場とDMAT、自衛隊、ボランテイア・受け入れ施設で集団避難を強行)。福島県の知事・役人のために市町村・病院・介護施設は本当に困ったようだ(受け入れ側、千葉の病院 談)。
  病人を乗せた避難バスの経路を「杓子定規」にとりしまった。2時間のところを12時間かかったような例が頻発。多数の死亡者をだした。

こういうこともあって、組織のありようが見直されている

・いままでの組織の作られ方を簡単に
1)    人 がんばれ、気を引き締めてしっかりやる、先輩を見て学べ、という時代
2)    自動化、マニュアル(仕事を標準化する)と機械できちんと(設備)  大抵これで間に合った。仕事の質も均一化。同じ事をする工場みたいなところにはよいが・・・・
3)  1)2)でかなりよくなったが、それにも限界があることもだんだんわかってきた。

再び「人」へ注目
 2)方式は 
  .意欲がわかない
            意欲 :創意工夫、改良、自分の成長(感)・・・
            適度な自己裁量が仕事には必要
  .設備や機械の改善にも限度がある
  .マニュアルが膨大となる
     マニュアルが最も有効なのは、one person―one jobのとき
          「マニュアル学ぶこと」が仕事になってしまう
  .状況が変動するような現場、仕事ではでも「足りない」
     定石、SOPはある。しかし「行間」は自分の判断・感覚
  .どんな所にも異常事態はある。
     想定のシナリオや訓練は絶対必要、しかしシナリオ通りになんていかない
  
・「手続き」や「作業」をマニュアルに書くことは難しくない。が、「仕事」「任務」はマニュアルには書ききれない(それを書こうとすると非現実的になる)
・「マニュアルには表わし切れていない行間を読み、自ら考え行動するためには、個々の能力も高くしなくてはいけない。普段何も考えない人が自ら考えて行動するのは博打」 
ここでいう「行間」の意味:自分が属している組織のそもそもの目的、存在意義の理解、「仕事」の大局的理解。日常的なトレーニングが、信頼と価値観を共有する助けになっている。

・(仕事は)行間を読むことで成り立っている?


」の組織と行動の特徴

・ 平時の教育・訓練、ルール、個人の創造力を高めるような学習がされていた

  分権ができる組織 中央集権分権、現場への権限移譲が柔軟、スムーズ、信頼

  信頼と価値感の共有と「自律」。自分たちが何を目的としている組織なのか? 指揮系統が断たれても、上司がいなくても、明文化されたマニュアルがなくとも、それほど迷わない(ドイツの軍隊の例がReasonの本にのっていた)

100点」を目指すのでなく、「80点を目指し、切り捨てるものも考える」

・最後にその現場で「マニュアル」でなく「正しいと思ったこと」を自分の責任で判断した人がいた、ことなんだろうね。

・「腹をくくったリーダーとそれに従ったフォロワーシップの好例か?」

最近「組織と人間に対する考え方」が少し変わってきているようだ

・人間をリスクとして考えるのでなく想定外の事象が起きたときなどに、なんとか臨機応変に「やりくり」して、生き延びる能力、損失を減らす能力を持つ存在と考える。

・「×」の組織の悪かったところの分析よりも、「」の組織の事例を重視する、という見方。

・ただ「人に頼る」をやりすぎると1)に戻ってしまう恐れがともなう。「No blame(人を非難しない、罰しない)」かつ普段は2)をしっかりすることが前提。1)とは違う。

・単に「柔軟な組織」というのでなく、柔軟になれる背景がある(上にあげたこと)

・特に、仕事への誇りと組織の価値観の共有(自分たちが何の仕事をしているのか、何のためにこの組織はあるのかを知っていること)。「医療」の場合、指揮系統がなくなっても、その職種の「職業倫理」(団体の「倫理」とは違うと思う)でうごけば問題がすくない?と思うが、それはわからない。

・「危険と隣り合わせのしごと」に携わる人間がこれから目指すのはこういう組織・チーム・人。「弾」とか「しなやかさ」を重視した組織、チームではないのか。いまはやりの?言葉で言うと「レジリエンス」という。泥臭く「現場力」とも言っても良いそうだ。

質問:身の回りで、明文化されたマニュアル・ルールから「はみ出して」というか、「原則」に戻って考えて行動。かえって上手くいった経験とかありますか?また逆はありますか?
 



注:青字はその時のメンバーの発言です

(以下、管理人のコメント)

 定例の会議でこういうことを話題にしてどうなのか?と自分でも思います。ただ、人間を「エラーを起こしやすい、仕事のシステムの中では最も弱い存在」という扱いから、もっと人間の能力に期待しようという流れになってきていることも知って欲しかったのでした。

 明文化されているルールから抜け出ること、も大変ですが、明文化されていない「きまり」と言われることから抜け出る?ことはもっと大変なはずです。ここで挙げた「○」の組織は、腰(腹)の座ったリーダーが、柔軟な発想をして、チームでそれを実行したのだと思います。もちろん、フォロワーシップを発揮できるメンバーもいたのでしょう。

 この1-2年であったことを都合よくいろいろ取り出して、これはレジリエンス、あれはそうではない、などと言っても仕方がないのですが、私の属している組織が(かつて、良い意味ですこし「ユルかった」のですが)最近あまりに「ガチガチ」に思えて・・・話題提供してみました。なにかが残ってくれればと思っています。こういう考え方が、もう少し世の中に広まったときに、外からの情報で変わっていくのかもしれません。「外圧」頼みなのですが・・・(苦笑)


 私が担当しているIG部会という会議はいくつもの部署の責任者による業務の連絡会議のような位置づけです。しかし、それだけでは面白くないだろうと、毎回、持ち回りの司会役が自由なテーマを選び簡単なプレゼンをし、それについて好き勝手なことをワイワイというものです。結論や正解は求めていません。最近のテーマは「部下の話をよく聞く方法」「新しいリーダーシップ」「部下を褒める」「防災マニュアルは実際に使えるか」とか、自分の気に入った本の紹介などでした。
  もうすぐ50回くらいになります。最近、「きれいにまとめる」ようになってきたので、少しやり方を変えなければと思っています。