2022年8月13日土曜日

本日のヒヤリハット(3) 「今、600錠在庫がないのですが・・・」「ぎゃー!!」

 10年くらい前の話 完全な電カルがまだ導入されていないときのできごと。

 ある、忙しい午前外来も終了まじか。

 患者さんの診察を終えた、内科医のAは処方箋を書き始めました。一日当たりの薬の量を書きこもうとしたその時、後ろから「××という薬、一回の使用量何ミリグラムでしたっけ?」と尋ねられ。「うん、600mgだよ」と答えました。

 そして処方箋に向き直ったAは薬の量の欄にそのまま「600」と書いてしまいました。この処方箋は看護師の眼と、医事課の眼を「無事」通り抜け、患者さんはそれをもって、処方薬局へ。

 しばらくして、診察を続けていたAに処方薬局から電話が入りました。       「診察中申し訳ありません。いま当薬局には、▽▽薬600錠在庫ないのですけど・・」「えーっ!」「ギャーッ!」

 薬局薬剤師の眼もパスしてしまったのです。

ミスに気付いたA医師は「危なかった」とほっとしつつ

「もしも仮に600錠在庫があったらどうなったのだろう?」「いくら何でも600錠は変だと思わないのだろうか?」「患者さんが600錠分のお金をもち合わせていなくて、先月よりも何倍も高い、と抗議されて気がつくのだろうか?」などと(自分のエラーは棚に上げ?)「チェックシステムの弱点について」考えるのでした。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

A医師の不注意だけが原因か?

このタイプのエラーは「乗っ取り型エラー」といわれもので、突発的なことに対応できない脳の認知機能の特徴によるそうだ。人間の脳は二つの事を同時にできない。できるのは、せいぜいガムを噛みながら慣れた仕事(スキルベースの仕事)をする程度、という。実際には、脳の中では二つの事を行ったり来たりしながら仕事をしている(これはパソコンも同じ。行ったり来たりを速くしているので「同時作業」をしているように見える)。

また、元の仕事に戻るほうが時間がかかる(トラブル)ようだ。

 この手のエラーは多数発生していると思われるが、ほとんどは事故に至っていない。それは、(自分も含めて)プロセスのどこかでエラーが発見され、指摘され、修正されているから(エラーマネジメント)なのである。

「ダブルチェックの形骸化」?

 当院でさえ毎日何百枚もの処方箋の発行がある。そのうちの多くは?前回と同様のものが担当医師の前(画面)に出てくる。それをクリックするのが仕事になっている。(事例の時期は「数」の記入はしていたのだろう)ほとんどの処方は前回同様なこともあり、ダブルチェックは形骸化されている。電カルでも内容的なことはチェックされない。「3錠(一日量)、2×(2回に分けて服用)」などと間違って入力すると、日本語とは思われない言葉?で拒否してくるくらいだ(よほどネット通販の画面のほうがわかりやすい)。頭は悪いし、不親切極まりない。きっと性格も悪いのだ。(D.ノーマン先生に言いつけたい)

 今回は違うが、場合によっては、人間によるダブルチェックの場合、エラーに気付いていてもとっさに指摘できない理由もある(遠慮、権威勾配、知識差・・・これは講座の「アサーション」「ダブルチェック」関連記事を参照してほしい)。

無菌の操縦席ルール

 また、特に「数の仕事をしているときに、別の(特に)数の事を話しかける」というのは(言葉は悪いが)そもそも仕事の妨害なのである。(講座・番外24「無菌の操縦席」「別館17 短期記憶と仕事の中断」を読んでほしい)

 「below ten」「無菌の操縦席」ルールでいかなければならない仕事だ。同じような設定は医療ではたくさんある。基本的には多忙だし、仕事が同時並行的に進められている(かつ、相互のタイミングなどの連携が必要だ)仕事がほとんどだからである。上記「番外24」で取り上げたが、点滴の調整をしているタイミングや、薬剤師が調剤している時間に話しかけたり、手術室の執刀医に電話を掛けたりすることがその悪例だ。

「ただ一つの原因を探し求める」ことでは組織の学習にならない

 事故原因を考えるとき、たったひとつの正解(誰が悪いも含め)を求めがちだ。事故の直近の小さなエラー一つに絞られたほうが「わかりやすく」「良い結論感」があるようだ。だが、結論が出なくとも、話が飛んでしまって、全く違った話になったとしても「事例を現場の言葉で話し合うこと」「ナラテイブに扱ってみること」がチームにとって最も効果的(学習的)ではないのか?

 現場の一スタッフでさえ「誰が悪いのか?」という発想になってはいないだろうか?

毎日のちいさな失敗からも大きな事故が起こりうることを想像できるような、そしてそのことを大げさでなく自然に日常の話題にできるようにしたいと思う。


(この項かきかけです)


0 件のコメント:

コメントを投稿