事始・別館 15 チームの条件 「心理的安全」

事始・別館15   チームの条件 「心理的安全」(改定中ですが)

「あーあ、あの時ひとこと○○と言えていたら・・・・」とか「いつも、ブツブツ言って嫌がられてもなー」「あっ、ちょっと確かめておくんだった」ということはありませんか?

言っておけばよかった、でも言え(わ)なかった、その結果、事故になってしまった、間に合わなかった。状態が悪くなってしまった。

「買い物に来たけど、サイズを聞いてこなかった」くらいなら、笑い話ですみますが、命にかかわることだったら?ということは想像したくありません。

このような問題を、私たちはいままでコミュニケーションの問題と捉え、「アサーション」や「コンフリクトリソリューション」などのCRMスキルでの対応を考えてきました。ところが、それは「勇気をもって主張しましょう」とか、「頑張ってもう一度言ってみましょう」と、どちらかと言うとメンバー個人の努力に期待するものでした。

今回は、視点を変えて「気兼ねなく発言できない組織・雰囲気」について考えてみます。
    「心理的安全」という考え方
お互いにとって関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気を「心理的安全(psychological safety)と呼び、チーム活動を効率的なものにしていくうえで重要な役割を担う要素として考えられています。
「心理的安全」がチーム活動におよぼす好影響について、産業心理学のA.エドモンドソンは具体的に7つの点をあげています。
率直に話すことが奨励される
考えが明晰になる(気兼ねによる不安は脳の活動を安静な状態ではなくしてしまうため、集中力を要する探求、計画、分析といった仕事に重要な役割を果たす処理能力を抑制してしまう。心理的安全はこうした抑制効果から解放する)
気兼ねなく意見を戦わせることができるようになり、意義のある論争が奨励される
失敗(ミスやエラー)をありのままに報告して話し合うことが気楽にできるようになる
イノベーションが促進される(多少突飛なアイディアでも提案しやすくなる)
純粋にチーム目標(みんなの利益)の達成を目指すようになる(保身を図るよりもやる気)。
他者からの非難を恐れず率直に話すことを支持し、そのことに責任をもつようになる。

とはいっても実際に、「心理的安全」を作り、維持していくことは簡単ではありません。職場のような組織集団では、互いに気を遣いあい、窮屈な思いをしながら仕事をしていることの方が多いのです。組織(チーム)にルールと必要な手順があるからと言って心理学的安全にかけていると発見も修正もされず、間違いも無くならないのです。

    なぜ自分の考えや感情を職場の仲間たちに気兼ねなく伝えることは難しいのだろうか?
エドモンドソンは、組織で働く際に、個人が抱きやすい4つのリスクイメージが、「心理的安全」の構築を難しくすると指摘しています。
それは一言で言うと周囲からの「評価不安」なのです。その中身は、
無知だと思われる不安
無能だと思われる不安
ネガティブだと思われる不安
邪魔をする人だと思われる不安

 は多かれ少なかれ誰もが経験したことがありそうな心理です。こんなことも知らないのか?とか この程度のことができないのか?
については一緒に仕事をしていれば、何かしら相手の耳の痛いことでも指摘しないわけにはいかないことも生じてきます。しかし、そうした批判的な指摘をすると、気むずかしい人だとか、一緒に仕事をするのが大変な人だとかの評価を受けてしまうのではないかと不安になります。これが「ネガティブだと思われる不安」です。
④ 仕事をしていれば、職場の周囲の人に、何か意見や考えをフィードバックしてもらいたいと思うときもあります。しかし、それを求めると、相手の時間や労力を使わせてしまうことがあると考え、仕事の邪魔をする人だと思われてしまうのではないかという不安です。

つまり、提案した内容そのものよりも、その後の自分への評価・人間関係の不安が「心理的安全」を作りにくくしているのです。

    あなたの組織で「心理的安全」は確保されているか?  ~超一流企業でも~



No←「イエス」の度合いが高いほど右側のブロックをチェック Yes
もしあなたがこのチームでミスをしたら、批難されることが多い。
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このチームのメンバー達は、困難な課題も提起することができる。
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このチームの人たちは、異質なモノを排除する時がある。
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このチームのメンバーに対して、助けは求めにくい。
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このチームには私の成果をわざと無下にするような仕事する人は誰もいない。
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このチームのメンバーと仕事をする中で、私個人のスキルと才能は、尊重され役に立っている。
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合計
/ 49
*このアンケートはハーバード大学のビジネススクールの研修を受けている職場の管理者やリーダーを対象にしたもの(TEDから書き起こし)。とすると、超一流といわれる組織からの研修者が多い集団のはず。しかし、心理的安全に関して、最適レベルが100となる評価スケールでみたとき、自らの属する組織は(回答の中央値が)76という評価。

   「心理的安全」を高めるリーダーの行動  ~自分をさらけ出す

どのような取り組みが、職場の心理的安全を高めることにつながるのでしょうか?エドモンドソンは、管理職をはじめとするリーダーの行動の重要性を第一に挙げています。
 まず、リーダーは
「現在持っている知識の限界を認めること」
「自分もよく間違うことを積極的に示すこと」
「失敗は学習する機会であることを強調すること」

すなわち、リーダーとはいえ、確実に正しい答えを知っているわけではないし、間違うこともしばしばあることを認めることで、失敗に対する寛容な姿勢を示すとともに、失敗から学ぶことを重視する姿勢を示すことが大事だというのです。そうすることで、メンバーも叱責されることを恐れることなく、積極的に意見を述べることや、率直な報告を行うことができるようになると、エドモンドソンは指摘しています。

これは、“結束の固い”チームが陥りがちの「集団思考」とは全く逆の発想です。

   「リーダーだって、上司だって知らないことがある」

現実のリーダー行動は、上記の行動とは逆のことも多いように思われます。リーダーであるがゆえに、自分はより多くのことを知っているし、広い視野で考えていると言いたくなるものなのでしょう。もちろん、自分の失敗は認めたくないし、メンバーの失敗は責めたくなることも多いのです。「お前があの時しっかりしていれば・・・」。エドモンドソンの指摘は、そうした素朴で人間くさい自己保身的な対応から、一歩踏み出して、メンバーみんなで気兼ねなく意見を出し合い、職場集団を(仕事をかたずけるチームでなく)「学び続ける」チームとして機能させていくためのリーダーの行動指針を示したものなのです。

 エドモンドソンはチーミングの成功例としてチリの鉱山事故への対応をあげています(TED)。「チーミングが上手くいくときは必ず、あらゆる階層において、正解がわからないことをはっきり自覚しているリーダーがいるのです。これを「状況対応型の謙虚さ」と呼びましょう。適切な謙虚さです。方法がわからないのです。そして必ずメンバーは好奇心にあふれています。この状況対応型の謙虚さと、好奇心が組み合わさると心理的安全性が生み出されるのです」


   「君たちの意見が必要だ。私はきっと何かを見逃しているだろうから・・・」
  
 ある外科のリーダーはタイムアウトの最後に必ずこう付け加えるそうです。
 このように、メンバーがリーダーに直接話しかけることができる環境を整えることや、意見交換に参加するようにメンバーに促すこと。比喩や抽象的な言葉よりもできるだけ具体的な言葉を使って、タイミングよく、表現することがのぞまれているのです。


この項 書きかけです

*最初に「CRMとは別に」と書きましたが、CRMでも「group climate」といって、チームの雰囲気を開放的にする、何でも話せる、聴けるようにすることが求められています。出発前のブリーフィングでの「つかみ」をいつも考慮している機長もいるようです。

*「アサーテイブになれなかった私」(HF講座 番外)で私たちの現場のアンケートを報告しましたが、そこでは一連の「評価不安」以外にも「心理的安全」の阻害要因あることがわかります。


*この「teaming」にはそれ以外にも、学び続ける組織を作るための、フレーミングの問題、責任と境界の問題、学習の問題などが述べられています。

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