番外24「無菌の操縦席」(2009掲載)で、高度3000m以下ではワークロードが急増する操縦席の業務を妨害しないようにと、客室から操縦席への電話連絡のルールが定められている(ICAO,FAA)ことをお知らせしました。同時にTEM(スレット・アンド・エラーマネジメント)という脅威と闘うプロアクテイブな取り組みで、無菌の操縦席機能が強化されていることも。
図は「Pilot Who ASK WHY」から
医療で「操縦席」に匹敵する代表的な設定は「手術室」でしょう。他にも外科的処置中であったり、薬剤の調整中、放射線であれば血管造影中などは「手を放す」というより「眼(意識)を移す」ことが、即、危険となる可能性のある業務であることはすぐに想像できます。内科系でも同じです。
「業務の中断」がどんなに当事者の集中力や短期記憶を阻害するかは、連載の「藪そば」などもご覧ください。こんなことは「江戸時代」から知られていたのです(苦笑)。
ちょうど「看護研究のテーマ」の相談をうけたところでした。
そこで、当院版「無菌の操縦席」を提案してみました。(こんな話は15年くらい前からしていたのですが、その当時は耳も貸してもらえませんでした)それでも相談に乗ってあげて(苦笑)、「こんなこと調べてみたら?」と。
タイトルは「その電話、今必要ですか?」
手術室の看護師さんたちは、(予定の)手術中に、病棟や外来、事務(外線)から医師にかかってくる電話に「緊急性の疑われる電話が多い」といつも感じています。
そして、その電話が、執刀医の集中力を削いだり、イライラさせたり、すべきことが抜けてしまったりするのではないか?といつも不安を感じているといいます。事故でなくとも、医師がイライラしたり、他のメンバーも「やり取り」に注意を奪われたりしがちなのです。つまり、連載・講座24のコックピットと同じ「スレット」にさらされているのです。
いまのところ、見た目はなにも起こしていないようです。しかし、どう考えても異常だ。なんとかしたい、実情を訴えて他部門の理解も得たい、と考えました。
で、どんなことをしたらよいか?というわけです。
*①一時間当たり手術室外部から(手術中の医師、あるいはカテーテル検査中の医師に)何回の電話がかかってくるか?(ある期間統計をとってみる)
*②その緊急度はランク1~3でどれくらい?(ランクは仮想)
*③術者が「メンタルに」もとの状態に戻るのにどのくらい時間がかかっているか? 主観的観察です。電話の後どのくらい「ブツブツ」言っているかが一つの目安です(苦笑)。本当は外科医にも心電図モニター(ホルターや脳波ならなおわかりやすい)などをとりつけてみれたらよいと思うのですが、外科医は「それがスレットだ」と拒否しそうですね(苦笑)
仕事の中断から元の集中レベルに戻るには一般に〇〇分(単純作業の例、講座のどこかに書いた)が必要です。単純作業の方が作業の再開時に「ぬけ」などのエラーを起こしやすいですし、複雑な仕事の時はそもそも「集中していた業務」を再開するののに時間を要します。・・・その後の影響も。
*④「航空会社の基準」を聞いてみる(調べてみる)
*FAAの少し古いデータですが「無菌の操縦席」が破られるとこんなことを起こしかねない、といいます。
48% が高度逸脱
14% がコース逸脱
14% が滑走路違反
14% が一般的な注意散漫で、特に悪影響はなかった
8% が許可なく離陸または着陸
2% が不注意と注意散漫による空中衝突に近い状況
このほかに観光、不必要な無線通話や PA アナウンス、客室乗務員の注意散漫、不必要な会話は、最も問題を引き起こす活動、と指摘されています。
*無菌の操縦席 FAA
*無菌の操縦席コンセプト(pilot who ask why 2024.6.)
*⑤ わかりやすい実例を「ナラテイブ」にとりあげて論議を作る。決して「決まりをつくり、厳しく運用」といっているわけではありません。レジリエンスでもありますね。
*⑥ NTTに聞いてみる「内線電話のかけ方マナー4選」(手術室ばかりでなく仕事上の電話の掛け方が参考になります。もちろん「SBAR」も参考)
やはり仕事前(や、その時々)のブリーフィングが「無菌状態」を守る?
これらの脅威から避けられないエラーに抵抗する明確な方法で推奨されているのが、やはり飛行開始前の客室乗務員とのブリーフィングだそうです。「sterileであることの表示」や客室への合図、飛行の予定や変更の条件など(FAA)がしっかりしてあれば、不要なコールが少なくなるわけです。それと権限の明確化(委譲)でしょうか。
*参考:PILOT WHO ASK WHY silent cockpitの意義や作り方も述べられています。
最後に
「その電話、今必要ですか?」
「相手のかたは、いま、何をされているとおもいますか?」
0 件のコメント:
コメントを投稿