短期記憶と仕事の中断(割り込み禁止)




短期記憶と仕事の中断(割り込み禁止)  v2


目の前の仕事を「そと」からの割込みで一時的に「中断」させられることがあります。例えば、声かけとか携帯電話です。僕などは簡単にそのあとの仕事(作業、とくにオーダリングや電子カルテ系の作業)を忘れてしまうことがあります。「それは、歳だから」と言われるかもしれません。しかし、こういう人間の本性は「江戸時代?」から知られていることだったようです。こんな落語があります。小松原先生の新刊に紹介されています。

以下引用^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

落語    “時そば”

  ・屋台の蕎麦屋で.食べ終わった客Aが,16文の代金を支払う場面
  ・客Aは蕎麦屋の掌に銭を 一枚一枚数えながら,テンポよく乗せていく
   「ひい,ふう,みい,よう,いつ,むう,なな,やあ(・・)」と来たところで「今、何どきでい!?」と時刻を尋ねる(=割込みタスク)
  ・蕎麦屋が「へい,九(ここの)つでい」と応えると,Aは間髪入れずに「とう,十一 十二,十三,十四,十五、十六,御馳走様」と続けてすぐさま店を去る。

  ・つまり,代金の1文をごまかしたのであるが、蕎麦屋はそのことに気づいていない
 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^引用ここまで

 “時そば”の落語は,割込みタスクにより作業(短期)記憶が「やあ(・・)」で消失してしまった例といえます。このように短期記憶(作業記憶)は割込みに極めて弱く簡単に消失します。このことは、エチケット(お行儀)として、相手が何かに集中している時には話しかけない、と言う以上の意味を持っています。話しかけたあなたの要件が、仮に仕事のことであっても、あなたの声かけが「蕎麦屋」(笑)の仕事の妨害(事故の要因)になっている可能性があるのです。

 実際に集中した仕事をしている時に、電話で遮られた場合、元の集中レベルに戻る「復帰時間」は15分程度かかるといいます(不稼働時間)。また作業記憶(ワーキングメモリー)は2秒後から消え始め、15秒後には消えてしまう、といいます。電話がすんだあとで「アッ、おれ今何しようとしてたんだっけ?」となるのです。(ジョセフ..ハリナン「失敗の心理を科学する“しまった”」講談社)

 これは以前に書いた「無菌の操縦席」(sterile cockpit rule)や「below ten」と共通する話です。電話でさえそうですね。特に携帯電話ですと、いきなり相手の仕事に割り込むことになります。少なくとも相手がいま何をしているかを思い描いてから、電話しましょう。

 江戸の庶民も人間の特性(ヒューマンファクター)を「心得て」いたのですね。



*上の図は人間の記憶の模式図ですが、知覚→残像→短期→長期記憶という順に忘れにくく、しっかりとしたものになります。しかし、それぞれの→のところで選択的知覚で情報の入力そのものが制限されたり、記憶の修正や不明瞭なところを他の経験などで補ったりされます。矢印も一方向ではなく、双方向と考えてもよいので、忘れるだけでなくかなり歪んでいくと考えられています。
           


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