事始・別館 9-9

線形アルゴリズム(ガイドライン)とエキスパートオピニオン(レジリエンス)

どこまで自由が許されるのか? 

「レジリエンス」だからといって、ガイドラインやアルゴリズムが「やりにくいだけの存在」「超えるべき存在」というわけではない。その存在が、重篤で複雑な症例の対応においてもやはり医療チームにとっての道標になっている。

・判断に困ったときにはアルゴリズムにもどればいい,と考える。

・アルゴリズムがあるので、基本的な流れが共有され、最小限のコミュニケーションでチームの方向性は一致しやすくなる。

そのうえでアルゴリズムからのオプションとなるエキスパートオピニオン(レジリエンス、平常からの「逸脱」)は

1)起こりうることを最大限想定し、

2)想定に対するモニタリングと条件を明瞭にし、

3)対応できる準備を行った上での選択になる

くわえて、小さな研究会で考えたのは1)-3)に加えて、「直近の課題よりも一つ外側(上)のミッション、自分の組織(職業)の存在意義、職業的倫理感などから判断する、ことがとわれているのではないか」ということだった。


★ヒューマンファクター研究者でも実際にレジリエンスの「線」を引くのは難しそうだ

  (以下はある大学でおこなわれたセミナーでの Q&A から)





エイミー・エドモンドソン(「心理的安全」を提唱、Googleが自社の調査で、成功するチームに最大の共通要因として証明、その後概念が爆発的に拡がった)は「プロトコールと医師の臨床判断」についてこう述べている(実際に米国のあるうまくいっているシステムの調査):
 
プロトコールの使用を促すコツは、すべての臨床医に対し、行動基準としてではなく、出発点としてプロトコールを使用するように求める。プロトコールにあるものと違うと判断したときには、いつでも医者はプロトコールでなく自分の判断を信頼すべきである。ただひとつだけ条件がある。実際にしたことを記録しフィードバックすること(組織やチームとして学ぶ素材にする)
           (「チームが機能するとはどういうことか」(7章)


S.デッカーは手順書・マニュアル(プロトコール)について以下のようにのべている。

・手順書というものは、状況の中で生じる様々な微妙な違いにすべて対応できるほど細か 
 く決められない。だから人々が手順に解釈を加える必要がある。

 ・どの項目をいつ実施するか、すなわちどれが実行できて、今どれをやるべき か、どれを 
  他の項目よりも先に実行すべきかは、人間による状況判断による。

 ・一度に複数の手順が必要な状況だってある。同時に複数の物事が発生するからである。

 ・手順は安全を保障するものではない。

 ・手順を適用するとは、何も考えずに規則に従うということではない。実際の状況に手順  
  をうまく適合させるということは、熟練を要する高度な認識活動なのである。


つまり、手順をうまく適合させるということは、「応用動作」(柔軟な手順の適用)と「手順の順守」の間の微妙なバランスなのである。各々「失敗」した場合は、「手順に従わず、アドリブで行った」とか「柔軟に対処しなかった」とかの「後知恵」で非難されがち、なのだ。(この場合の「応用動作」はレジリエンス行動と考えてよいだろう。筆者)
                    (「ヒューマンエラーを理解する」 P200)

 
つまり「分権」「現場を信じるほかない」「現場に任せられる人間を育てる」ということなのだろう。そして、成功も失敗も組織の学習・進化の糧とできるように。

・・・この項続く






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