別館・番外「その電話、今必要ですか?」3 後日談(続・無菌の操縦席)

 別館・番外 「その電話、今必要ですか?」後日談
(続・無菌の操縦席 3


後日談です。

 最初は「これはぴったしだね」「おもしろそうだ」と同意をしていた看護師さんたちでしたが、結局は「できない」とあきらめているようでした。

 なぜでしょうか?

 時間がかかるわけでも、データの収集がとくに難しいわけでもありません。

 話を聞くと「他部署を批判するような可能性のある研究データの収集は、内部(看護部の上の方)から否定され,つぶされる」「他部署からは非難される」というのがテーマに魅力はあるが採用をためらった理由のようでした。


 私は(たかだか内部の研究会ですから)「批判」とか論議が巻き起こったり、みなが気が付いていなかった問題点を提示する、というのはそれだけで評価されるべきだと思います。それだけでなく「硬直した組織」(私の個人的感想?)に思考の柔軟性を持ち込む良い機会だと思ったのです。  

 組織として「心理的安全」の研修もしてあることですし、批判や反論はあるのが当たり前で、「人格的な非難」はしない、ということも理解しているはずです。「心理的安全」があるというのは、みんながニコニコ同意してくれる研究発表ばかりがではないことも学習したはずです。

 現実の「課題」が露わになると研究会はこまるのでしょうか?

   正解がひとつでない研究会ではこまるのでしょうか?


グループ(当院)の心理的安全性は?

 当院の「安全文化」「心理的安全性」が疑わしいことが「研究を始める前に」証明されてしまった様な気がします。

 ついでにこの組織の心理的安全性のスコアをつけてみました。エドモンドソン教授の初期のものです。

 No←「イエス」の度合いが高いほど右側のブロックをチェック →Yes

もしあなたがこのチームでミスをしたら、批難されることが多い。

7

6

5

4

3

2

1

このチームのメンバー達は、困難な課題も提起することができる。

1

2

3

4

5

6

7

このチームの人たちは、異質なモノを排除する時がある。

7

6

5

4

3

2

1

このチームなら、安心してリスクを取ることができる。

1

2

3

4

5

6

7

このチームのメンバーに対して、助けは求めにくい。

7

6

5

4

3

2

1

このチームには私の成果をわざと無下にするような仕事する人は誰もいない。

1

2

3

4

5

6

7

このチームのメンバーと仕事をする中で、私個人のスキルと才能は、尊重され役に立っている。

1

2

3

4

5

6

7

合計

/ 49


 表の「チーム」の枠を「研究グループ周囲まで」に拡張すると問題のある結果になりそうです。

 また、自粛する自分たちも以下の「心理的安全性」を阻害する4つの要因(評価不安)に影響されていると思いませんか?

    「質問をしたり、情報を求めたりすると無知と思われないか?」

    「他の人の邪魔をする人間」と思われないか?

    「自分の失敗を話したら無能と思われる」のではないか?

    「ほかの人の仕事に難癖をつける人と思われる」のではないか?

                        (A.エドモンドソン)


・「心理的安全」にしても「アサーション」についても、「耳障(ざわり)」がよいだけに、安易に理解できたかのように思ってしまう誤解」(「人は誰でもまちがえる」もそうですね)が社会的にも指摘されています。


(別館「レジリエンスの紹介2」の「心理的安全」から)

 「一方で、当たり前だが仲の良いことばかりを求めているわけではない。あなたの意見が必ずしも賛同を得られるわけではない。仲間にも反論する自由や否定する権利があるのだ。特に「ダメなこと」との境界は明確にし、それ以上は責任を負わせることも明らかにすべきというのだ。「ぬるま湯的世界を作るわけではない」のである。組織としての「成果」「進歩」も「達成すべき目標」なのである」


プロ意識と仲間意識のバランスを見つける

「無菌コクピットのコンセプト」(2024.6.)のJ・D氏は次のように結論づけています。

  「無菌コックピット規則を設けるのは、コックピットを静かにするためだけではありません。重要な飛行段階における集中力を高め、安全を確保するためです。 

      気を散らすものを減らし、本当に重要なときに明確で関連性のあるコミュニケーションを維持することを目的としています。(筆者注:業務以外の会話を禁じ、正式の用語・言い回しを使い、明瞭なコミュニケーションをこころがける。このことは医療でもタイムアウトをはじめ、心臓手術の循環停止など、様々な場面に適応できます)

  これにはやり過ぎの可能性もありますが、最も重要なこと、つまり飛行の安全性を第一に保つためには、プロ意識と仲間意識のバランスを見つけることが重要です」


注1.「がんじがらめの“無菌の操縦席”運用をしたために、乗客が発見した主翼上の氷結をCAが操縦席に伝えず、離陸後すぐに墜落」という例もあり“100%無菌”には一部反対論もあったようです。しかし連載24や墜落例も現実としてあります。実際の運用は「safety2」(レジリエンス)ということになるのでしょう。「マニュアルやルールを正しく使うというのは、実は優れた技術や知識(目的への理解)が必要」(デッカー)なのです。FAA(連邦航空局)では「rule」となっています。


注2. 講座の以下のレポートも参考にしてください

講座21「あなたは上司や同僚の過ちをどう指摘しますか?」

講座番外23「アサーテイブになれなかった私」

番外 私説「アサーテイブコミュニケーション」

この連載にご意見をおよせください。   

                        この項ここまで

 

MLでの意見

・「改善提案」というより、「上司・組織に対する批判」と上司が受け取っているような気がします。

 ・企業でもそうですが安全大会など「○○という工夫をして成果がこれくらいあがりました」というような報告がのぞまれるんですね。

 ・表はちょっと合わないような・・・、医療も意外と不自由なのですね。


 

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