2016年9月4日日曜日

イーストウッドが描く「ハドソン川の奇跡」




「ハドソン川の奇跡」のことは ヒューマンファクター講座 番外28「ヒーローには運がある」 で素材にさせていただいた。こんどはクリント・イーストウッドが描くサレンバーガー機長とそのチームの物語。「知られざる」と映画の広告にあった。
「ヒーローの物語」に何が起こっていたのか?映画の感想です。

これも

9月24日からです。


http://wwws.warnerbros.co.jp/hudson-kiseki/

http://eiga.com/news/20160904/8/



「メイデー、メイデー」から「ハドソンへ」35秒 

「空白の時間35秒」とはなにか?


          下のタイムスタンプつきのCVRの記録はhighest dutyから


追記:「奇跡」のあとで  映画を見て感じたこと(2016.10.1.

 見てきたばかりの率直な感想。(誤解があるかもしれません。あらすじなどは省略。映画のネタばれサイトなどをお読みください)

NTSBの調査

1. NTSBもあんな「台本」が先にあるような調査をするんだ、ということにまず驚いた。

2. 後知恵で裁く。「計算ではラガーディア(空港)に戻れたはずだ」など。しかし、事故発生後に当然しなければならない対処(クイックレファレンス)をした35秒を無視。後知恵の調査は大抵そうだ。用意したストーリーに都合の悪い情報は無視する。「さっさと、こうすればよかった」などという(ひどい時には隠すことまでする)。

3. 時系列に「時間」のスケールをきちんと入れて、その時のタスクを考慮した調査をする必要があることをS.デッカーが強調している(「ヒューマンエラーを理解する」)。時系列は単なる記録に残った「行為」や「会話」を並べたものではいけないのだ。

4. NTSBは解析されたデータを入れ、シミュレーターを使った実験をした。これもすごいと思ったが、実験のパイロット達には、まえもって事故の概要とシミュレーター実験の目的を伝えられていた。機長の追及で「35秒の空白の時間」を計算に加えた(パイロットの持ち時間を少なくした)シミュレーターの再実験が行われた。皆、空港にたどり着けずに「墜落」した。

 こんな実験を公聴会でするというのは大したものだが、その前提となっている知識や時間のスケールしだいで、一見公平な公開実験でも結果がひっくり返ることがわかる。(油断がならない)

さらに疑問は残る

1. エアバス(当事者)が協力したようだが、目的は何だ?
2. パイロットエラーにしたかったのか?
3. 保険会社のかかわりは?
4. 機長が「自著」で「家族的な会社」と評価していたUSエアウエイズはどんな立場?クルーを護ったのか?

結論

1.機長が乗客・乗員、全員を救い、さらに「自分たちを護った」のは、自分達の技量とALPAでの事故調査の経験、ヒューマンファクターの知識と正しいことをしたというプライドなのだ。

2. NTSBの調査は評価が高いし、大したものだと思うが、案外全損事故などでは当事者から「反論」されたことなどないのではないか?ほとんどがもう「反論」できないことが多いのだ。だからこそ「トンネルの中に身をおいて考えろ」とDekkerが強調するのだ。

3. Reason教授のいう「必要な人が必要なところにいた」という言い方がまったくそのとおりと思った。機長が「teamworkだった」と謙虚に語り、副操縦士ジェフが(「また、おきたらどうする?」という記者の問いに)「こんどは、7月にやってほしいね」というユーモアあふれる回答をする。
 自信と謙虚さとユーモア。Reason教授も「(危機を救う)ヒーローの要件」に挙げている(「組織事故とレジリエンス」)

4. 報道された葉面的な「奇跡の物語」の影でこんな問題があったことを初めて知った。機長やジェフとNTSBの調査官とのやり取りが必見。

そして「奇跡」を完成させた人たちがいた。


 サレンバーガー機長やクルーはもちろんヒーロー。しかし、それだけでは全員の生還は不可能だった。不時着を発見し、いち早く救助に向かった人々もまた奇跡の立役者だ。

 大体、着水からたった4分で最初のフェリーが機体にたどり着き、その呼びかけで他の船も周囲に集合。そして合計24分で最後の人を船に救いあげた。さらに幸運だったのは、ハドソン川がおだやかで、たまたま凍結もしていなかった(翌日凍結)。大抵は「不運とエラーが重なって事故」と言う話なのだが「これは奇跡が重なった」としか思えない。

  「時系列」を考えると本当に奇跡。時系列も3次元で調査しなければ、起こったことを理解することができない。映画でそれを表現するのもその一つだと言うことがわかった。なにせ、自分自身をその場に置き換えることができる(感情移入も含めて)有力な手段なのかもしれない。

http://hotakasugi-jp.com/2016/10/02/movie-review-sully/
http://www.asahi.com/ad/hudson-kiseki/
https://www.youtube.com/watch?v=lMSaFW1ugeY   NTSBの調査


もう一度本を読んでみよう。



「JUST CULTURE」


 その後、ニューヨークのブルームバーグ市長はクルーに「市の鍵」をおくり、栄誉をたたえた。さらにサレンバーガー機長が着水の時持っていた「Just Culture」(シドニー・デッカー著)日本名「ヒューマンエラーは裁けるか」の新品を「忘れ物」として機長にプレゼントした。(上のCNN動画)

 一方、ハドソン川に沈んだ「Just Cultue」は、後日、機体とともに引き上げられ、丁寧に乾燥され機長のもとに届けられた(しかし、当然シワシワ)。機長はこれを、借りた地元の図書館に返還した。本はボロボロで一般の貸し出しや、閲覧には耐えられなかったが「図書館のタカラモノ」になった。


 実は、同じ時期に仲間と、この本(英語版)の読み合わせをしていた。あのヒーローも読んでいたと思うととてもうれしくなった。



*パイロットは着水の訓練は、こうすればいいと(一応)教えられるそうだ。しかし、実例が少なすぎてシミュレーターのデータがないそうである。仮に無事、どこかの海面に降りても、その後誰が助けてくれるのか、という問題がある。実際に1982羽田沖事故では滑走路から200-300mなのに、最初のゴムボートがヘリから落されたのが30分後だったという。

だから今回の話がなおさら奇跡と思うのだ。


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